君が可愛いから【鶴清】【#鶴清版深夜の真剣文字書き60分一本勝負】

つるきよ版深夜の60分一本勝負
#鶴清版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題:きゅん

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「ごめん、主の手伝いがあるんだ」
「そうか、なら仕方ないな」
何度めか、デートの誘いを断られて流石に落ち込む。
あまり波立ったこともなかった水の中に石が落ちて、重く重く嵩を増していく。
それでも笑顔はそつなく、あくまで軽妙に。
忙しい彼に負担をかけたいわけではなかった。

俺、鶴丸国永と加州清光は恋仲だ。
顕現してすぐ初期刀として、近侍として、俺の手を引いてくれたのは加州だった。
本丸の案内から人の身をもっての生活、立ち居振る舞いまでその細く優しい手で導いてくれた。
最初は安心感だったように思う。
それが気がつけば心を苛むほどの大きな恋に育っていた。
調子を落としている俺を気遣う加州に、取り繕うこともできず縋り付くようにしておもい恋情を吐き出した。
つっかえつっかえ言い募る俺にうん。うん。と優しく相槌をうっていた加州は、俺がついと黙ると「少しだけ考えさせて」と言った。
できるだけ早く答えるようにするから、と慰撫され追い詰められていた心情を吐き出した俺のそれから先の記憶は曖昧だ。

そしてその翌日、昼餉のあと共に内番にあたっていた蛍丸と食休みをしていると、加州に呼ばれた。
「答えをあげる」
と言われた俺は、確かにできるだけ早く答えるとは言っていたが、こんなに早いとは思わず心の準備もできないまま
またあの細い手に導かれて人気のない農具小屋の裏に来ていた。
「考えたんだけど、」
その時の俺の気分はまるで処刑台に上がる罪人のようだった。
仲間に不埒な思いを抱いた罪で、この意外と真面目な刀に罪を咎められるのだとしか思えなかった。
だからその後に続いた言葉の意味が最初は理解できなかった。
「俺もあんたのことが好き」
「、え」
意味を掴み損ねて呆然としている俺を見て加州はふっといたずらっぽく笑って手を差し出した。
「あなたの恋人にしてください」
その瞬間、心に咲いた花をなんと言ったら良いのか。
後日、加州に「きゅんとする」という言葉を教えてもらい、なるほど確かにこう、胸のあたりがきゅんと音を立てていたような気がしてきた。

そうして晴れて恋仲になったはずだったが、加州清光は主から一番の信頼を受け重用されている近侍だった。
近侍殿はとにかく忙しい。
やれ主の書類が終わらぬ、主が風邪をひいたのでかわりに当番の伝達だ、と働き詰めている。
…主が悪いような気がしてきたが。
それでも合間を縫って逢瀬を重ねてはいるが人の身の欲は恐ろしいもので、もっと上を際限なく求める。
二人きりで出かけたい、と一度でも思えばもうだめだった。
その願いを叶えるべく、加州にお出かけのお誘いをしているのだがどうにもふるわない。
本日加州は近侍からは外れていたので今日こそと意気込んだものの、結局報告書の提出期限を忘れて缶詰になっている主の手伝いをするようだった。
…まて、本当に主のせいのような気がしてきたぞ。

ともかく、俺は加州と出かけたかったが、それが叶えられたことは一度もない。
気落ちして縁側でぼうとしていると、茶と茶菓子を持った加州がやってきた。
「主の手伝いはいいのかい」
「うん。ちょっと休憩」
思いの外長いことぼうとしていたらしい。
「ごめんね、鶴丸。せっかく誘ってくれたのに」
「いや、仕方ないさ。君は忙しいからな」
「そうなんだけどさ、そうじゃなくて」
「?」
ご機嫌取りかと思わず穿った見方をしてしまうが、そうではないらしい。
「俺も、一緒に出かけたかったんだ。だから我儘なんだけど、できればこれに懲りずに、また、誘ってほしいな、なんて」
語尾に行くにつれて少しずつ顔をうつむかせた加州の耳が真っ赤だった。
俺はまた胸がきゅんと音を立てるのを聞いた。

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